クリスマスシーズンのドイツの町々を旅行しました。そのひとつがニュルンベルクで、中世における神聖ローマ帝国(962年 – 1806年)の帝国会議開催の町、そんな帝国の復活をもくろんだナチが党大会を開催した町、そのため第二次大戦で徹底的に破壊された町、中世の建物が最善の形で保存され一大観光都市だった戦前の姿を取り戻すべく戦後の復興がすすめられた町、そんな一面をもつ人口約50万人の都市です。
復興された中世のたたずまいのある街並みを歩けば、中世へと簡単にタイムスリップすることができます。江戸にタイムスリップするためにはかなりの想像力を必要とする東京とは大きな違いで、昔を歩くというこの「大江戸ウォーキング」の狙いを安直に実現できるのです。最新小型デジカメで、教会の鐘の音を録音したり、クリスマスマーケット全景をパノラマアシストで撮影したりしながらの楽しいウォーキングとなりました。
1.フランクフルト中央駅
ドイツで最初の鉄道は、1835年、江戸時代の天保6年、日本で鉄道が開通する明治5年(1872年)の37年前、ニュルンベルクと隣町フュルト間約8kmで開通しました。その当時からのシステムなのでしょう、市街道路とプラットフォームとの境がなく、まるで路面電車や馬車に乗る感覚で電車に乗り込みます。1番線から24番線までが横一列に並ぶ広い駅は、高い天井をもち、天井窓からの自然光があふれ、屋外のような開放感をもっています。それは昔からの雰囲気にちがいありません。そんな伝統や歴史を感じさせるフランクフルト中央駅が、中世への旅、ニュルンベルクへの出発点となりました。
2.クリスマスマーケット
ここニュルンベルクのクリスマスマーケットが世界で一番有名だといわれています。1628年、江戸時代初期の寛永5年には開催されていたという記録がある伝統的なマーケットです。可愛い工芸品を売る屋台が並び、クリスマスを祝うための飾りや人形などを求めて多くの人びとが集まり、そこに焼きソーセージや熱いグリューワインの屋台もでき、お祭り気分があふれます。装飾品を中心とした手作りの品々は一つひとつが微妙に違うので、選ぶ人たちも、自分のお気に入りを見つけようと真剣です。それは昔から変わらない風景なのでしょう。世界で唯一の自分だけのもの、人のぬくもりが感じられるもの、といった手作り品ならではの魅力が、この盛大なクリスマスマーケットを昔から継続させている一つの要因なのではないでしょうか。味付けも何もない素朴な焼き栗がとてもおいしく、昔ながらの味を楽しみました。
3.教会
クリスマスマーケットのある中央広場からお城に上がる坂道沿いにある聖セバルドゥス教会には、大戦で破壊された教会の写真が展示されていました。屋根も壁も崩れ落ち、教会内外にがれきが散乱しています。この状態から、がれきを一つひとつ拾い集め積み重ねていく気の遠くなるような復旧作業がおこなわれたのでしょうか。心の拠りどころとなる教会の復旧が、自分たちの心の復旧につながることを信じての作業たったにちがいありません。なにか強い信念や願いがなければとて成し得ない気がします。敗戦で打ちひしがれた人びとの悲しみが伝わってくる写真、困難な復旧作業を見事に成し遂げた人びとの誇りが伝わってくる、戦後60年を経てもいまだに実施される展示、それが心に強く残りました。
4.城
旧市街の北の端の岩山に建つ城塞カイザーブルクは、12世紀に神聖ローマ帝国の皇帝居城となったところです。宮殿のような豪華さはなく、頑丈で質素な城塞です。天井や床の重量感ある木材、白壁などに囲まれた皇帝の広間にただよう重々しさ、その窓から見下ろす市街の美しさ、そんなところに立つと、皇帝の権威を感じざるを得ません。機能的な城塞としてだけではなく、人びとの頂点に立つ皇帝の権威をも示す場でもあったのでしょう。
5.デューラーの家
ドイツ・ルネッサンスを代表する画家アルブレヒト・デューラーの家では内部が見学できます。日本語のイヤホンガイドもあり、2階の台所にトイレを作り罰金を取られた、といった生々しい当時の生活ぶりが紹介されています。どういう罰金なのかはわかりませんが、中世ヨーロッパの都市では排泄物を窓などから道路に捨てていたようで、そんなことに関連していたのかもしれません。ほぼすべての排泄物が肥料として回収され再利用されていた江戸に比べると、不快な臭いがただよう町だったのかもしれません。日本語のイヤホンガイドによって、中世のこの町の内面を少しだけ覗けた気がしました。