山田ズーニー氏文章力ワークショップ3回目、最終回だ。1回目(11月12日)が「自分の想いを表現する」、2回目(1月21日)が「一人の人に伝える」、そして3回目は「多くの人に伝える」が主題となる。最終講座が近づき、卒業課題の提出も終わったためか受講者が前回よりも少なかった。こんな貴重な講座なのにとても残念だ。
今回の発表テーマは、「自分のWillを表現する。<自分を社会にデビューさせる企画>」だ。時間内でまとめ切れなかったと感じている人が多かったように思うが、山田氏からは「このテーマでつまづく人が多いが、今回はみんな高いレベル」との評価をいただいた。
自分が目指す職業と、やりたいテーマを挙げる。しかしそれだけでは自分のWillを描ききることはできない。「実現したい世界観」があって初めて具体的なWillが見えてくる。編集者になって参考書を作りたい、といってもそれで何を実現したいのかがなければ具体的なWillは見えてこない。職業やテーマは自分の世界観を実現するための手段にすぎないからだ。ワークショップでは二人ペアの相互インタビューで「自分のやりたいこと」「自分の世界観」を明確にしていく。来年会社を卒業する私にとって、新しい社会へのデビューを考える良いチャンスとなった。
ワークショップに入る前に山田氏のやりたいこと、世界観について1時間あまり話があった。自分の体験や心の動きを何回も掘り下げた結果と思われる嘘のない山田氏の話は、時に涙声になってしまうほど全身全霊をかけた言葉で溢れていた。日本一の編集者になろうと張り切っていたこと、自分の企画が通らずに悩んだこと、高校生との対話の中で、読者の目線で考えていない独りよがりの企画だったことに気がついたこと、新しい小論文の参考書が多くの高校生に支持されたとき「日本一の編集者などはどうでもいい、読者がいることが分かった。私にはこの高校生たちがいる」と思ったこと、充実した日々のなかで突然担当替えになったこと、自分の心に正直に「(会社を)辞めます」と言ったとたんその高校生たちを失ったこと、会社を辞めてから頼まれた「おとなの小論文教室」サイトでそれまでの経験や知識を全て無償で書いたこと、仕事探しをしている惨めな自分が「おとなの小論文教室」を偉そうに書いても嘘になってしまうこと、同じ境遇にあって共感してくれる人が一人はいるはずだと「おとなの小論文教室」で惨めな自分を表現し始めたこと、そして本の執筆依頼がきたこと、最初の書籍「あなたには書く力 がある」を書いて、失っていた高校生たちだけでなく社会人も含めた多くの読者を再び得たこと、などをそのときのエピソードや心の動きを交えて語ってくれた。山田氏が大切にしている「嘘のない言葉」が重要な局面で人生の方向を決めているように思う。山田氏に励まされた多くの読者が自分の想いを伝えようと頑張り、伝える力、書く力が伸びていく、それが氏の世界観なのではないだろうか。
共感してくれる人が一人はいるはずと信じて、惨めな自分を表現していたときが一番輝いていた、と語る山田氏、多くの共感者を得ている今のほうが輝いているように思うのだが、それが山田氏らしさなのだろう。自分の深層心理を何回も掘り下げ、嘘のない言葉を全身全霊を込めて探し出す、まるで修行者のような山田氏、そのワークショップへの参加経験は、多くのことを得た「マスコミの学校」受講経験のなかでも最も貴重な財産になった思う。