エレベータ遊び
新宿にはときどき歩いて遊びに行った。家から3km以上あり結構遠出の遊びだった。京王線が新宿駅に入る手前で路面電車となり広い甲州街道を斜めに横切るのを見ながら伊勢丹へ向かう。伊勢丹のエレベータに乗るのが目的だ。なにしろお金なしで乗れる乗物なのだ。あちこちでエレベータのお姉さんに追い出され、乗るエレベータがなくなると帰る。いかに怒られずに乗るかに知恵を絞る。1つのエレベータに連続しては乗らない、1つのエレベータで上がったら、隣もしくは別の場所のエレベータで下りる。エレベータのお姉さんとは目を合わせないようにしていたはずだ。しかし、親が付き添っていない子供がエレベータに乗れば遊びだというのは明白だ。同じエレベータに2回ぐらい乗ると追いだされるので、この遊びはそんなには長続きしない。でも毎回わくわくしながら新宿に向ったものだ。
階段から転げ落ちる
我家の前にある2階建アパートには鉄製の外付階段があり、その階段で遊んでいて一番上から落ちたことがある。なにもできずにただ転げ落ちていくなかで、まるで映画のスローモーションを観ているような不思議な感覚を味わった。階段の下まで落ち、しばらくジーとして何が起きたのかを考えた。怪我はなかった。初めての経験でドキドキしながらすぐ家に帰って大人しくしていたと思う。
剣作り
京王線の踏切での遊びは剣作り。釘を電車に轢かせて平たくする。ただそれだけだが結構遊べる。電車が通り過ぎると釘をレールの上に置き、次の電車を待ち、電車が通り過ぎると、飛んだ釘を探し出し、ピカピカになった平らな部分をさわり、滑らかな感触と生暖かさの感触を楽しみながら剣の出来をみる。
飛んだ釘がなかなか見つからないときもある。友達と二人で線路に上がって飛んだ釘を探していたら、いつのまにかおやじが立ってこっちを見ている。その踏切はおやじの通勤路だったのだ。しまった、と思ったがもう遅い。でも「こんなところで遊ぶんじゃない」と言われただけで済んだように思う。1kmぐらいの家への道のりをおやじと一緒に帰った。手をつないでもらったかもしれない。
消防学校
おやじが勤務する消防学校に遊びに行ったことがある。家から1.5kmぐらいあり、小学生にとっては遠出の遊びとなる。高いところからロープで下りる訓練などが見れるのを期待していたのかもしれないし、あるいはおやじに会えるのを期待していたのかもしれない。訓練場の淵を川が流れており、川に入って遊び、川から這い上がって見つからないようにそっと訓練場を覗き込む。おやじの職場であり、消防学校の歌も歌えるのだから見つかっても大丈夫、などと勝手に納得しながら。しばらくして見つかり「そんなところで危ないだろう」と言われ、慌てて逃げ帰った。その夜おやじに「消防学校に行った」と言うと、「そうか来たのか」と嬉しそうだった。