人を包み込むような柔らかく心地よい話し方や親しみのある表情、話が進むにつれて見えてくる内面にある厳しさ、強さ、粘り、そういったもの全てが残間里江子(ざんま りえこ:1950年仙台市生まれ)氏をプロデューサとして成功させている要因なのだろう。強い『自分の想い』をもって多くの人たちを巻き込んでいく名プロデューサの知恵と力に圧倒された今回の受講だった。
山口百恵の自叙伝『蒼い時』(1980年集英社)をプロデュースし注目された残間氏は、119人のパネリストの一人として小泉総理も参加した「大人から幸せになろう」というトークフォーラム(2001年)のプロデュース、都市再生機構による東京ベイエリアの「東雲(しののめ)キャナルコートCODAN」プロジェクト(1998年-)への参画、2007年ユニバーサル技能五輪国際大会の総合プロデュースなど多方面にわたって活躍している。残間氏の目指すところは「新しい価値観の創造、そしてそれによって誰かが可能性の巾を広げてくれること」だ。
自叙伝を出したいと山口百恵自身が依頼してきたときに、「自分で書きたい」という彼女の言葉を聞いてプロデュースを引き受けた。「ゴーストライターで」といった話が出たら依頼は断っていた。当時40社にも及ぶ出版社から自叙伝出版の依頼があり、「百恵さんは何も書かなくていいです」との申し出まであった状況での話だ。残間氏には「著者が書いていない本を出したら(自分の)母に叱られる」という想いがあった。自らの想いを行動の原点におき、そこから外れるようなことはしない。当時多くの出版社が欲しがっていた山口百恵の自叙伝も例外ではなかった。それほど自分の想いや主観を大切にしているのだ。
出版でもイベントでもたくさんの人や企業の協力がないと成り立たない。残間氏はそんな人たちを「春風」で巻き込む。「春風」とは「理想の形をかかげる」こと。それぞれに想いや思惑があり、それを刺激して人々や企業をコーディネートしていく。「大丈夫です。何とかします」と言えることが大切だという。「何があっても殺されることはない」という図太さも必要なようだ。
出版やイベントの成功の裏には多くの難問があり、それを一つ一つ解決していく残間氏の広い視野、幅広い人脈、強力な行動力、粘り強さ、そして何よりも「想いの強さ」には敬服するしかない。出版されることのない原稿をこつこつと書き続け、押入れを原稿用紙で一杯にしていた母を見て育った彼女には「世の中で欠けているものを埋めたい。割をくっている人たちを勇気付けたい」という強い想いがある。そんな想いが人々を動かし難問を解決していく。認められたいとか、注目されたいとか、感謝されたいとかいうことよりも何かをしたい、してあげたいという姿勢を強く感じる。「独りよがりではない『想い』、身近な人のための『企画』が大切」という言葉が印象的だった。
質問コーナーで花田編集長が「『春風で人を誘う』はいいですね」と言うと残間氏がすかさず「花田さんは今夏風だから」と微笑んだ。「夏風で人を煽る」ということなのだろうか。楽しそうな会話だった。