ダカーポの編集長永野啓吾(ながの けいご:1953年熊本市生まれ)氏の講座は受講生の多くの質問に答える、実践的な内容となった。
永野氏の情報収集術の一つに定点観測がある。毎朝の犬の散歩の時にゴミ置き場の空き缶や空き瓶から今の流行を知り、それを長年続けることで流行の変化を知る、というものだ。簡単そうだが、根気と鋭い触感がなければできないことだ。また「一人でできる情報収集は知れている。情報が集まってくる人脈作りこそ大切」と強調し「『こいつに情報を流せば何とかしてくれる』と思わせることが必要だ」と言う。永野氏の人脈作りの秘訣はとの質問には「こまめに手紙を書くことかなぁ」と答えている。かつては新宿ゴールデン街の常連だったことも人脈作りと関連しているのだろう。
使える企画の提案があれば決してパクらずに提案者にやってもらう。ただし、使える企画はあまりないとも言い切る。永野氏にとって使える企画とは「ちょっと気がつかなかったこと」「斜めからではなくストレートなもの」「大上段でないもの」だそうだ。そして良い原稿についても言及し「タイトルや小見出しがすぐつけられるもの」と分かりやすさを、「丁寧な取材に基づいたもの」と内容品質を重視しているとのことだった。
大学を卒業してマガジンハウス(当時は平凡出版)に入社し、平凡パンチ、クロワッサン、ダカーポ、書籍などの編集部を経て2002年にダカーポの編集長となった永野氏にとって、一時は発行部数120万部といった勢だった平凡パンチでの仕事が最も楽しかったようだ。20代の若さで突っ走っていたのだろう。今ままでを振り返って「編集者は半分ズボラで半分緻密が良い」という。理屈で考えても、相手次第でどうしようもない時があり、そんな時はズボラに、原稿などを読む時は緻密にというわけだ。気負いのないひょうひょうとした調子で語る永野氏は伸び伸びと楽しく仕事をしている印象を受ける。やりたいようにやるワンマン編集長かもしれない。いづれも若者文化をリードしてきたマガジンハウスの社風そのものなのだろう。楽しそうな会社だ。