戦争写真を多く手がけている報道カメラマン・ライター宮嶋茂樹(みやじま しげき:1961年兵庫県生まれ)氏は、正義感に溢れた反戦写真家ではない。むしろ、「(戦争取材で)怖いとか可哀そうとかいった思いはない。とにかく弾の下をくぐってきたという思いだけだ」「今までの人との出会いで一番悲しい思いをしたのは、極上美人の売春婦を値段が高くて買えなかったことだ」と公言する、自分に正直に生きている現実派だ。
宮嶋氏を動かしているのは「他の人には撮れない写真を撮りたい」という強い想い。戦争写真が最もそれに近いのだろう。ユーゴでは着いたらすでに平和になっていて金にはならなかった、イラク戦争では日本に帰って銀行口座を見たらびっくりするぐらい沢山の金が入っていた、ルーマニア内戦では本格的な戦闘写真が撮れ、これで俺も戦争写真家として自慢できると思った、カンボジア自衛隊派遣では自衛隊野営地の前でテント生活をしながら取材した、休戦間際のボスニアでは戦闘写真の代わりに戦場跡をバックに美女たちを撮った、などを淡々と語る宮嶋氏からは戦場をくぐりぬけてきたという気負いは感じられない。だからこそ冷静な行動がとれ、今まで無事だったのかもしれない。
金正日の写真をロシアで隠し撮りしたときのことだ。金正日がホテルから出てきたので隠れていた部屋の窓を急いで開けようとしたが開かなかった。思い切り力を入れて開けると大きな音がして金正日を囲む多くの人たちが一斉に窓の方を見上げたが、かまわずに超望遠レンズを向けて撮影した。撃たれるかもしれないと思いつつも、「誰にも撮れない写真が撮れる」という思いの方が勝っていた。金正日の目の前でロシアが下手なことはしない、という冷静な計算もあったようだ。そんな強い想いと冷静さが、花田編集長が「今、売れっ子のカメラマン」と紹介する宮嶋氏の原動力となっているのだろう。