読み手に伝わらないどころか読む気にもならない文章、それが最初の文章だった。身内の話なので思いつくままをだらだらと書き連ね、自分にとって分かりきったことは省き、嘘すらついている。このときも何回も書き直し、しだいにまとめていった。最初にやったのは「嘘をつかない」こと。格好をつけたり、面倒な説明を省くために嘘をつく、それをやめた。次に、自分だけが分かっていて省いたことを丁寧に文章にして、事情の分からない人でも理解できる文章にすること、そして、思いつくままに書いた文章のほとんどを捨てて、話題を1つのテーマに絞り込んだ。
テーマは「我家の愛犬モモが叔母を元気付ける」で、1回目の文章には「モモを相手に遊ぶ楽しい時間」などと書いてあるが、モモは一緒に遊んだりしないので、それは嘘であり、必然的に薄っぺらな表現となっている。また、「迷い犬を捨てに行ったが、自分よりも早く家に帰って待っていた」という叔母から聞いた話が面白く、全体との関連付けもないままだらだらと長く書いてある。何回か書き直して、これらがほぼなくなって少し伝わる文章となったように思う。
山田ズーニー氏の「伝わる、伝わらないの境は嘘のない言葉か否かだ」(2006年1月21日の講座)の「嘘のない言葉」とは「根本思想と言葉の一致」という高い次元でのことだが、私の場合は、現実とは違う「嘘」という低い次元からまず脱する必要がありそうだ。