赤いセーターに黒いブレザーとズボンのとてもおしゃれないでたちで、ユーモアをまじえて軽快に話を進めるジャーナリスト矢崎泰久(やざき やすひさ:1933年東京生まれ)氏は、一時は発行部数20万ともなった雑誌『話の特集』(1965年創刊、1995年休刊)の編集長兼出版社社主だ。タバコ『ハイライト』の箱のデザインなどで当時頭角を現していたデザイナー和田誠氏と一緒に、既成の枠にとらわれない新しい創造の場を作家やアーティストたちに提供したことで、 『話の特集』には寺山修司、横尾忠則、立木義浩、竹中労、伊丹十三、谷川俊太郎、三島由紀夫、五木寛之、筒井康隆、植草甚一、永六輔、篠山紀信といった新進気鋭のメンバーが集まってきた。
矢崎氏のこういった人たちとの出会いを楽しく聞くことができた。詩人の谷川俊太郎氏は矢崎氏の無知さにあきれ、寺山修二氏は、勢いよく開いたアタッシュケースから床に飛び散った中身を拾い集めながら、一緒に拾う矢崎氏に「ゴミまで入れないでくださいよ」と訛り言葉で懇願し、三島由紀夫氏とはいきなり腕立て伏せを競った。「最も印象的なもので人間はつながる」「(電話などではなく)人に直接会うことが大切」といった矢崎氏の言葉が実感として伝わってくる。
『話の特集』は「反権力・反体制」の雑誌だったが、これはジャーナリスト矢崎氏の今も変らぬ姿勢でもある。「田原(総一郎)はだんだん変ってきた。最近は自衛隊派遣や改憲にも賛成している。猪瀬(直樹)は急に変っちゃった」と不快感を隠さない。何かを得る、何かを守るというときに時として人は変る。しかし矢崎氏は趣旨一貫している。賭け事が大好きという氏は思い込んだら一筋、迷うことはないのかも知れない。江戸小話のように小気味よく、明るく遠慮のない話で、とても爽やかなものが心に残った。