マスコミは時世に迎合する。そうしないと新聞も雑誌も売れず、
TVも視聴率が取れないからだ。戦争直前にマスコミが「戦争賛成」となるのも権力からの圧力のためではなく時世に迎合するためだ。とマスコミの危うさや限界を視野にいれつつジャーナリズムの現場で真実を追うジャーナリスト田原総一郎(たはら そういちろう:1934年滋賀県生まれ)氏の話は一つ一つに重みのあるものだった。雑誌「WiLL」も最近右よりだが、それは売れるからであって花田さんが右というわけではない、といった田原氏ならではの発言も面白い。
「サンデープロジェクト」(日曜朝10時テレビ朝日)のターゲットはビジネスパーソン、放送翌日月曜日のビジネスの現場で番組内容が話題となる、そんな狙いだ。一般消費者ではなく企業を顧客とした会社がスポンサーとなっている。視聴率は9%程度で、番組が生存するための最低視聴率7%以上を確保するとともに、10%を超えないようにとも考えている。10%を超えると番組の質が変ってくるからだ。とスポンサーや視聴率を含め全体を考えながら番組を進めている田原氏、フリーのジャーナリストでここまで考える人は少ないのではないか。まさに成熟した大人のジャーナリストなのだろう。
「当事者に会うのが取材、当事者以外からの間接情報を私は報道しない」と言い切る田原氏は、インターネットなどに頼って取材しなくなったジャーナリストが増えていることに警笛を鳴らす。また、マスコミは多くの間違いを犯している、とも言う。今回の耐震強度偽装問題報道でもTVなどは真実を報道していない。映像は事実ではあるが、意図された一部のみの映像は真実を反映していない、としだいに熱がこもる。「明日(11日)のサンデープロジェクトでは鈴木(日本ERI社長)さんに出演してもらう。私が取材した内容は今までの報道とは全く異なっている」とのアナウンスがあった。
講座の翌日に番組を見た。「『1年前に日本ERIで姉歯建築設計事務所の偽造問題を隠蔽していた』というイーホームズ藤田東吾社長の国会発言は誤りで隠蔽ではなかった」という事実(新事実ではないが)はある程度明確にはなったが、「(弱い構造が見つけられない)検査機関に何の意味があるのか」という疑問には答えていない。講座で田原氏が意気込んでいた程の大きな新事実はなかった。この番組から、小さな新事実の発掘を積み重ねて真実に迫る、時間のかかる根気のいる仕事がジャーナリズムなのだということをあらためて感じた。
講座での田原氏の言葉「『新事実の発見』『新視点(今までの常識が覆されるような)』のどちらかがあれば取材は丸、二つあれば二重丸、どちらもない取材はバツだ」とか「企画力は、みんなが常識だと思っていることを疑うことから始まる。『疑うこと』こそ大切」は心にとどめておくべき言葉だ。