初めて訪れた庄内平野は、田植え間もない若い稲の、勢いのある明るい緑が一面に広がっていました。これが秋になると黄金色に輝くのでしょう。平野を囲む山々は濃い緑、さらに先の山々は薄い青緑、梅雨時の湿り気のある空気の中、平野も山も生命力あふれる美しい緑で溢れていました。
小雨模様のなかを登った羽黒山も、うっそうとしたブナと杉並木の緑に包まれていました。霊場・出羽三山のひとつである羽黒山は、随神門をくぐるとそこからは神域、山頂にある、出羽三山の三神を祀る三神合祭殿までの参道は2446段の石段になっています。途中にある樹齢1000年といわれる国の天然記念物『翁杉』、その大きさに迫る杉の巨木が、ブナ林とともに石段の両側にどこまでも続く様からは、神々しさを感じます。このようなうっそうとした森林がスポンジのように雨を吸収し、地下水となり、川となり、庄内平野の稲を育て、日本海の海の幸を育んでいます。その恵みの源となる山々が、人々に崇められ大切にされてきたのは、自然で、当然のことなのでしょう。
人々の信仰が、2446段の石の参道、随神門からすぐの国宝・羽黒山五重塔、散在する数々の小さな社、そして頂上の三神合祭殿を造ったのです。それは周囲の自然と見事に調和した造形物で、自然と共に生きてきた人々の優しい気持ちを表しているかのようでした。梅雨時には梅雨時の素晴らしい景色に出会うことができました。
参道の中間地点に、力餅や飲み物がいただける茶屋があり、お婆さんと中年女性の二人で営んでいました。お婆さんは83歳、冬季を除く毎日、荷物を担いで1000段以上の階段を登ってきて、電気が無いので、杵でお餅をつくそうです。60年間続けてきたとのことで、とてもお元気、仕事があって、身体を動かすことがいかに大切かを、改めて思いました。お婆さんにあやかろうと、力餅をいただきました。その日についたお餅は、柔らかくてとても美味しかったです。
定年後、妻と二人でいろいろなところに旅しており、そのたびに、初めての風景、初めての体験に出会います。幸せな定年後です。同じく定年となった友人のなかに、年6回も海外に出かけるご夫婦がいます。先日、ランチでご一緒したとき、再来年の4月まで予定が決まっている、と嬉しそうでした。元気なうちに大いに楽しもうということなのでしょう。そんな友人に刺激を受けているのは確かですが、我々はそれほどの頻度にはなりません。まして海外となると尚更です。今回は、「大人の休日倶楽部パス」東日本JR4日間乗り放題の旅で、2泊3日の新潟、酒田、鶴岡と、日帰りの伊豆下田でした。友人とはスケールが違いますが、楽しい旅で、「乗り放題」というお得感の嬉しさもありました。