「老後のぜいたく程々に リタイア貧乏が待っている」という記事(日本経済新聞電子版9月9日)に、38歳の会社員が66歳の父親から、家計が苦しいから少し援助してくれ、と頼まれたとあります。家計再生コンサルタントなる人が調べてみると、収入以上に使っている、という単純な図式でした。
父親母親の二人暮らしで、支出が月30万円、退職後5年間はアルバイト収入のみで月10万円、年金が出るようになったら体がきついのでアルバイトをやめて年金収入のみの月20万円、という家計内容でした。このため、退職時に1900万円あった退職金などによる貯金は、5年間で1300万円ほど減って600万円ほどとなり、その後も年120万円づつ減っています。そこで息子へのSOSとなりました。
こうなるまでにどうして対策を立てなかったのかが不思議、バカだなぁ、と他人事のように言えるのかもしれませんが、明日は我が身かもしれません。「オレオレ詐欺なんかには絶対引っかからない」と断言する人が、まんまと騙されている現実があるわけで、誰しもがどこかに愚かさを持っているのです。コンサルタントのヒヤリングによると、「いままで仕事も子育ても頑張ってきたんだから、少しくらい楽しんでもいいだろう」という”ごほうび”の誘惑に駆られ、旅行に行ったり、いい食べ物にこだわったり、友達付き合いに力を入れたり……、ということでした。
確かに、退職して自分の時間が大幅に増えると、要するに暇ですから、楽しみを求めて旅行、食事、友人、趣味などにお金を使うようになりがちです。現役時代であれば、使おうにもそんな時間はありませんでした。また、退職とともに社会との関わりが薄くなる寂しさから、社会や人とのつながりを求めて出費を重ねる人もいるでしょう。この両親は、「友達付き合いの一環で、漬物をたくさん作って配っていた」そうです。また孫たちのために毎月3万5千円も使っており、可愛さからだけではなく、そんな寂しさから、というのもあるのかもしれません。
収入を超える支出で暮らす人が身近にもいます。叔母は一人暮らしで、気兼ねなく世話をしてもらえる人を遠方から呼んで、新幹線代を含む交通費と数日分の日当を出しています。月に2回来てもらうこともあって、叔父の遺族年金では足りずに貯金を取り崩していました。姉さん女房で、叔父に対して威張って暮らしていたためでしょうか、世話をしてもらうのは威張れる人でないとだめなようなのです。その人は昔のご近所さん、叔母をよく理解し、我儘をしっかり受け止めてくれます。最近あまり呼ばなくなったようですが、貯金が残り少なくなってきたことがその理由の一つのようです。退職とか、伴侶との死別とかで失ったものを穴埋めしようとお金を使う、そして貯金が底をついてきて初めて対策を考える、そんな人が多いのかもしれません。だからリタイア貧乏が話題になり始めているのでしょう。
対照的なのが、奥さんと二人暮らしの友人、とても几帳面で計画的な人です。退職とともに、貯金や年金などを確認して、生活に必要なお金を先々まで計算し、小遣いや好きな旅行に毎年いくら使えるかを割り出しています。その収支を奥さんに見せて、だから旅行に行こう、と誘います。お互いの小遣いも決めていて、小遣い専用の財布を二人とも持っているそうです。その財布に、気が付くとほとんどお金がない、というのが奥さん、友人はおそらく、いくら入っているか常に把握していることでしょう。名コンビ、リタイア貧乏とは無縁の素敵なご夫妻です。
そこまでしっかりはできないまでも、将来どうなるかを大まかには捉えておく必要はありそうです。そして何よりも、「老後のぜいたく程々に」ということでしょう。幸い私の趣味はウォーキング、お金がかからないどころか、時には交通費を節約できるし、何時間も楽しめて健康に良い、とまさに良いことづくしで、リタイア貧乏には陥らないで済みそうです。歩けるかぎりはですが。